俺、このレポートが終わったら昼寝するんだ・・・(2008.1.12.五冊目)

正直、今回は洒落にならない。見込みでは12単位脱落。恐らく卒業及び進級には何ら影響を与えないと思われるが、来年授業を増やさないといけない。下手したら週4登校の可能性すら・・・まぁ来年こそ進学に備えてバイトも控えるし、それほど大きな時間的制約になるとも思えないのだが。「大学に行かなくて済むのなら極力行かない」をモットーに頑張ってきました。あとはレポートを二桁仕上げて死ぬだけです。今週は図書館の鬼になる!

なんて意気込んでいながら、今日も一冊読み終えた。吉村昭連続読書第三弾、あいも変わらず素晴らしい文体でした。

ポーツマスの旗 (新潮文庫)

ポーツマスの旗 (新潮文庫)

写真がないのがどうも納得いかないが、仕方あるまい。この本はその名のとおり、ポーツマス条約締結までの交渉を小村寿太郎外務大臣・全権代表を通じて描いている。日露戦争の激戦に関しては、司馬遼太郎の『坂の上の雲』があまりに有名であるが、あの小説を読んだ後で本書を読むと歴史の面白みが二乗になるだろう。

主に、ロシアとの交渉を描いているので、日露戦争自体の描写は詳しくはない。ある程度の予備知識が必要になるだろう。といっても中学の教科書レベルで十分だ。日露戦争は朝鮮・満州をめぐっての日露の対立であり、独英仏それぞれの思惑が複雑に絡み合った国際情勢の中にあったこと。それだけで事足りる。もちろん、出来る限り詳しく知っているほうが好ましい。そういう意味で『坂の上の雲』と組み合わせると良い。本日のコーヒーとチョコレートチャンクスコーンの組み合わせのように。

読み終えてまず思ったのは、歴史はやはり人が紡いでいくのだということであった。教科書には決して上ることのない話ではあるのだが、その影には多くの人の努力が隠されている。私を含めて後世の人間はそういった人間性を無視しがちであることが実に残念だ。出来ることならばその時代を肌で感じたいと切に願う。

日露戦争での主要戦闘に連戦連勝した日本陸海軍であったが、既に弾薬は底を尽き、国庫は破綻寸前の状況にあった。つまり、日本軍は勝利を続けながらも戦争を継続できない状態にあったわけで、講和条約の締結は急務であった。ロシアはロシアで国内での革命機運が高まっており、精強な陸軍を極東方面に輸送できないでいた。お互いの相手に見せられない面を必死に隠しながら、ポーツマスでの交渉は進められたのである。

作中で、小村は日本の外交の弱さを嘆いていた。常に存亡を欠けた戦争に関わってきた列強諸国の外交戦術は舌を巻くレベルであり、日本外交はとてもではないが肩を並べることなど出来ていなかった。そのような中で小村が見出した攻めの外交。攻めの外交はひとつ間違えば、一気に裏を取られてしまう。危険と隣り合わせの外交であった。日本は講和条約を締結できるだけでも御の字であるというのに、その本心をひた隠し、「戦争を続ける用意がある」と虚勢を張りながらテーブルに座り続けた小村の気持ちはいかほどであったろうか。

交渉決裂か成立か、一寸先もわからぬ会議の展開に、やはり結果がわかっているとはいえ期待させられてしまう。テーブルが半分ひっくり返った状態からどうやって南樺太の割譲まで持っていったのか、次のページが実に待ち遠しかった。そして、忘れてはならぬのが、ロシア全権代表のウィッテである。ウィッテはウィッテで、ロシア国内の継戦派の台頭に焦りながら、余裕ある風を装ってテーブルに着く。日本人であるからか、日本外交団の動向に神経が自然と集まってしまうが、ロシア外交団も綱渡りのドラマがあったのだ。

外交とは、虚勢の張り合いであるのかもしれない。如何に自己を正確に分析し、どこまで相手をだますことが出来るか、その一点に外交の成果は宿るのだろうか。国家の利益と威信を賭けた男たちの神経戦、それは日露戦争での激戦地における英雄たちの活躍に少しも劣るところがない。講和条約の締結があったからこそ、日露戦争が終わったのだ。そういった当たり前の事実を、再認識できた。また、少し哀しくも思う。この頃の日本は、まだ正常な時代だったのだと。

明治の政治家の偉大なところは、日露戦争の終着点を見出していたことである。昭和の政治家・軍人のように終わりの見えぬ戦争に盲目的・精神論的に突っ込んでいくという愚かな選択をしなかった。如何に昭和の時代が狂ったものであったのか、ということは城山三郎の『落日燃ゆ』を読むと良くわかる。正しい行動が踏みにじられ、極度の権威主義精神主義に走った昭和日本。何が日本を変えたのか。

戦争というと華々しい戦闘場面にばかり目が行ってしまうのだが、それを終える役割を担った人間のドラマもまた素晴らしく、そして涙ぐましい。ポーツマス条約の締結は日露戦争の後始末などではなく、むしろポーツマスこそが主戦場であったのではないかと思わせてくれるほどに面白い本であった。

となかなか良い気分に浸っていたら、来年から『坂の上の雲』ドラマ化じゃないですか!これは実に嬉しい。さすがNHKNHKの自然番組いつも見てます。大河ドラマの前に。正直、『坂の上の雲』の少年時代は少し退屈だったけれど、後半は食い入るように読んでいた。下手に映画化しないでドラマ化というのが嬉しいです。映画だと時間が短いし・・・これは期待!久々にテレビに期待!