言葉を知りたい。

この前、後期の授業で菊池寛を扱うといわれたので本屋で菊池寛の短編集を買ってみた。あまり短編集というのは好きではないのだが、菊池寛自体があまり長編小説を書いていないようなので仕方なく購入した。本当は夏休み中に欲しかったのだが、地元の小さな本屋では菊池寛自体が置いていなかったので、これまで伸びてしまった。どうやら全集などを除くと、岩波と新潮から短編集が出ているくらいのようだ。

そんなわけで一昨日あたりから読み始めて、今朝読み終わった。だいたい10話くらい入っていたように思う。印象深い作品が多かった。確か『恩讐の彼方に』という作品の中にあった言葉だったと思うが、「亡羊の嘆」という言葉が強く心に残った。この作品は、文庫のタイトルになっているくらいに菊池寛の代表作なのだが、内容は正直に言って他の作品に比べて圧倒的に優れているようには思えなかった。誤解を招かぬように書いておくが、他の作品が素晴らしいので、突出していたようには思えなかったということである。

さて、「亡羊の嘆」だが、iPhone大辞林によると「学問の道が多方面に分かれていて、容易に心理を得がたいことのたとえ。また、思い迷って途方にくれたり、どうしてよいかわからず考えあぐねること」となっている。少し前の小説を読んでいるとわからない言葉がたくさん出てくるので、常に辞書を片手に読み進めているのだが、これも例に漏れず辞書を引いてみて初めて知った言葉だった。そういう点ではiPhone大辞林はとても便利である。

その意味を知ったとき、ここ数年の悩みを一言で言い表されたような気がして驚きを禁じ得なかった。自分はまだ学生なので、これから人生の進路を決定することになる。だいたいの方向性は定まっているものの、それもまた細かくわかれていて、どこに進めば良いのかはっきりと決められなかった。どこに進むのかを決めなければならないのに、何を基準にして決めたら良いのかわからず、結局何もしないまま大学生活の後半は終わったように思う。

やりたいことはたくさんある。旅行にもまだまだ行きたいし、博物館や映画にもたくさん行きたい。そういった娯楽への欲求は尽きることが無い。それ以外でも、勉強したいことも山ほどある。とりあえずやってみたいと思うのは経済だ。歴史を学ぶ上で経済は欠かすことの出来ない要素であるのは否定しようがない。そして、経済を深く学ぶためにはある程度、少なくとも高校卒業程度は数学が出来なければならない。かといって、本業の歴史学が学歴(大学のランクという意味ではなく)に見合うほど十分に身に付いているかと言えば、とても自信が無い。だから、歴史自体をもっと深く知りたいと思う。

ただ、足りないのは時間だ。恐らく、どんなに時間を無駄にせずにきたとしても時間がないと思うのだろうが、ある程度無駄にしてしまったという後悔があると余計にその感情は強くなる。ただ、諦めも早くなる。今何が必要なのかを考えなければならない。

これから数年、どのような道を辿ることになろうとも、将来的に教員を目指したい気持ちは今のところは揺るがない。だから、早ければ1年半後、遅ければ11年後の自分を描いて準備をしたい。1年半後というのは、少々早すぎる。要するに院を卒業した後に教員として就職するということになるが、それまでに十分な学力が身に付くだろうか。今はとても心許ない。逆に11年後というのは遠すぎて目標が立てにくい。こちらはいったん一般企業に就職してから教員免許の期限が切れる時期に転職するというパターンだが、そもそもどこの企業で何をして働いているのか、その間勉強するだけの時間を確保することが出来るのかが現時点では全く見えない。

卒業後はあとで考えることとして、学生で居られる時間をどう過ごすかというのが現在最も重要な問題になる。ストレートで院を卒業すれば残り1年半、1年余計に居たとすると2年半あることになる。もちろん2年半の方が都合が良いのだが、その分就職が遅れるわけで両親ともその点は話し合わなければならない。自分一人の問題ではない。

今、最もやりたいと思うのは、現実性のあるなしを考えなければ、日本や世界を見て回ることだ。これは単なる旅行欲ではなく、学校で社会科を教えるときに、その内容を自分の目で見たことがあるかどうかというのは重要な問題だと考えるからでもある。去年教養科目で取っていた宗教学の教授は、キリスト教の歴史を熱っぽく語っていたが、ギリシャ修道院まで実際に行って、その様子を詳しく語ってくれた。その説明は、これまで受けたどの授業よりも説得力と迫力があり、何よりも面白かった。そういう授業をなるべく出来るようになりたい。

そういうわけで今年は北海道を回ってみたわけだが、小学生の地理の授業はこれまでよりも格段に説得力を増して出来るようになったと思う。例えば「サロマ湖ではホタテの養殖が盛ん」ということを教えるときに、今回の経験を生かして「道ばたになぜかホタテの貝殻が30センチごとに落っこちている」ということを詳しく話してあげれば、ただ教科書をなぞるだけよりもはるかに興味を持ちやすいだろう。

ただ、日本全国を見て回るだけでも、長い期間が必要なのに、もう最後の夏休みが終わってしまった。来年の夏休みは修論に追われることになるので忙しい。採用試験の対策もしなければならない。春休みは就職活動だ。4年間何もせずに過ごしてきた自分の愚かさを呪うしか無いが、この点はどうにかしたい。働き始めてからではとても出来ることではないのだから。

勉強は短い時間でも出来る。今が一番学問に向いている時期だから、一生懸命やる。とりあえずくずし字を読めるようにして、もう一度近現代史を復習する。英語もやる必要がある。休みを得るためにも、普段頑張っておく必要がある。モチベーションがあがらずにいられようか。

バイトの時間ももったいないのだが、辞めるわけにはいかない。責任もあるし、給料も必要だ。何よりも、子どもに教えるという行為を続けていたい。今年は、といっても半分が終わったが、授業内容の改善に真剣に努めたい。誰よりも楽しい授業に、誰よりも伸びる授業にしたい。5年目を迎えて、少しダレてしまっていたが、修正する。