2008.1.10.No.4

ちょっとペースが上がってきた。大学が始まったので、読書の時間が確保されるようになったからだ。「いや、その理屈はおかしい」ということになるのだけれど、授業中というのは貴重な読書時間なのである。特に水曜日のアジア史概論は午後早い時間だし、水曜日はひとコマしかないので集中して読書が出来る。

そんなわけで今日読み終わったのが↓です。

大本営が震えた日 (新潮文庫)

大本営が震えた日 (新潮文庫)

今は吉村昭を集中して読んでいるので、ジャンルが偏ってしまうのは仕方のないことだが、ちょっとまずい気もしないではない。もっと色々なジャンルを組み合わせて読むべきかもしれないが、一気に見識を深めたほうが効果的ではないかとも思う。色々と不安は感じるのだが、今年一杯は集中読書をしていくつもりだ。

この本は、太平洋戦争開戦前夜を描いたドキュメントだ。日本史の教科書には、華々しい真珠湾攻撃や見事なマレー半島奇襲上陸とだけ書かれているが、実際にはその影で多大なる努力が行われている。直前まで大本営を惑わせた一機の航空機墜落事故、南遣艦隊の苦難、対タイ外交の座礁と克服、真珠湾攻撃への秘匿作戦・・・これらの緻密な計画が慎重に、かつ豪胆に行われたからこそ、緒戦の快進撃が生まれていた。

刻一刻と迫り来る開戦時刻。遅々として進まない外交交渉や航空機捜索、手に汗握る描写だ。大本営が必死になって秘匿した開戦であるのだから、当然その取材は困難を極めたのだろうが、目の前に焦る日本陸海軍人の姿が浮かんでくる。一連の奇襲攻撃は世界史上類を見ないほどの大成功を収めることは知っているのだけれど、それでも鼓動が激しくなる。

特に開戦日時の秘匿の徹底さには驚かされる。情報の価値が飛躍的に向上した現代において、イージス艦の情報漏えい事件が起こっているにも関わらず、開戦に関する情報遮断は実に徹底したものだった。この情報管理こそが、誰もが不可能と考える奇襲成功の鍵であったのだろう(実際に軍令部が真珠湾攻撃を拒否していた時期もあった)。

戦艦武蔵』がレイテ沖海戦で終わっていて、終わり方が少々物足りなかったのに対し、本書は開戦を終わりにしているために一種の満足感で読み終えることが出来る。今まで積み上げてきた努力が報われる形になるわけだから、当然といえるかもしれない。本書の文章も、無駄がない書き方で、筆者の特徴が良く顕れていたと思う。アジア・太平洋戦争は開戦までにこれほどの綱渡りを行わなければならなかったのか・・・と素直に感心せざるを得ない。あの戦争の一側面が良く捉えられていると思う。